金がなければ不幸に思う事が多いが、金があっても不幸な場合がある。靴屋を営む平凡な男性が、ある日、自分の才覚を見出し、またそれを強力にサポートしてくれる女性が後押ししてくれたことをきっかけに、二人三脚で外食産業に進出して大成功した。この重なった偶然で人生が大きく変わったものである。
会社はその女性が専務として実務を取り仕切り、社長は実務上の権限を殆ど委譲していた。その専務の積極果敢な運営姿勢で会社は活気づき、出店を加速させていった。また同時に潤沢な資金を背景にM&Aを繰り返し、飛ぶ鳥を落とす勢いの企業、そして社長は時代の寵児としても注目されていた。
M&Aは救済型も敵対型と多様な買収を貪欲に取り組み、批判も多くあったが、会社を取り巻くみんなは勝ち組に乗ろうと持ち上げていたものである。会社を持ち株会社に移行し、傘下に多くの業態とブランドを持つ巨大グループ企業となり全国展開を目指した。
勢いづいた当初は出店スピードにマネジメントが追い付かないチグハグな点が目立ったが、「戦略と管理の一体的推進」を徹底したことで、何とか落ち着いてきたようだ。
そんな時に現場の陣頭指揮を執っていた専務が病気で亡くなった。社長はずっと一緒にパートナーとして頑張ってきたので寂しさを隠せなかった。また専務に任せっきりだったことで、今後の経営上の不安もあり、随分と落ち込んだものである。
遅きに失する感は否めないが、ここで真剣に「事業承継」を考えたのである。
自らが新たに起こした我が子のような会社を、やはり自分の親族である子供(息子、娘)に託そうとするが、息子が経営者としての資質や能力などに問題があり、なかなか承継がうまくいかない。
息子としても先祖代々の家業であれば、幼い頃からそれなりの覚悟で準備していただろうが、元々は町の小さな靴屋で父の代で終わろうとしていたにで自分は大学を卒業して大企業に勤めて安定した生活をと思っていたのである。それが突如のひらめきと後押しする飲食店経営のセンスのある女性の出現で、息子も大きく人生が変わったのである。
・・・・・続く